『人間顔じゃないからさ』
「…ってメールしたわけよ。幹事として、私はさ!」
 ゴクゴクとジョッキに注がれたビールをぷプハっと飲み干して、オジさんくさく、ケロロは言った。
「うんうん。それで?」
 あしは枝豆を熱心につまみながら、気のあるようなないような微妙な返事をくり返す。

 先日、ケロロがウチらの共通の友人・ポッタちゃんの為に開いたお食事会(お友達紹介会)での出来事だそうだ。
 以前ポッタちゃんの開いた合コンで彼氏をゲットしたケロロは、今度はポッタちゃんのために一肌脱いだのだ。
 話し聞くと、どうやらポッタちゃんの理想は『優雅な専業主婦』
 着物やお茶など中々多趣味の多いポッタちゃんからは、『お稽古のお金を快く捻出してくれる頼もしい旦那様候補』と言うオーダーが入ったそうだ。
「オーダー入りまぁ〜す!『お稽古のお金を快く捻出してくれる頼もしい旦那様候補』」
「ウイ!」
 っとケロロはスマスマよろしく、返事をしたのだろう。

「だから!相方と相談してあたしゃメチャクチャ探したわよ」
 ケロロはさらにピッチを早めてジョッキを追加する。
 あたしは指先に付くジョッキの水滴をナプキンで拭きながら、ちょっと体を前のめりに「うん。うん」と頷いた。
 二人のサーチエンジンで検索した結果。ピコンと一件該当。見事見つかったそうだ。どうやら会社の若社長さんで、性格も温和。生活は楽をさせてくれそうだと判断し、彼女に紹介したそうだ。
「…まぁ。30ちょいなのに髪がペタっとしていてねぇ…。でもお金持ちで性格良くて売れ残るんだから、それなりの訳はあるもんじゃんよ。まぁ気に入るかどうかは別として紹介してみたわけ」
「で? どうだったのよ」
「いや〜。どうやら好みのタイプではなかったようでムスっとしちゃってねぇ…」
「まぁねぇ〜。ポッタちゃんも期待してただろうかねぇ」
 さっきまでの勢いがちょっとだけ薄れたケロロがちょっと迷ったように言葉を続ける。
あんたさ。あれ知ってる?イヤなゴキブリを泡でで固めよう♪ってCM。あれの泡で固められてた亭主にそっくりだったのよ。」
「あ〜。その飲み会行かなくて良かったかも。あたしもその人見たらきっと『ケロロ!スプレー持ってこい!』って言っちゃうよ」
(すみません。悪気はないんですが、私ら口が悪いので…。)
 私の台詞に、ケロロは頷きたいけど頷けないと言う微妙な顔でぷぅっと膨れた。
「でもさ!オーダー的にはちゃんとあってたもん!」
「は〜。ポッタちゃんは何気に面食いだと思うよ」
「そんな! 金あって優しくてカッコイイ男がいたら、あたしが付き合うっちゅーの!」
 そりゃそうだ。
 ウンウンと力強く頷き、思わずケロロと固い握手を交わす。ナイス強欲。ナイス悪友。
「でも優しい人だって相方も言ってたし、きっと良くしてくれるんじゃないかなと思ってさ。『人間顔じゃないからさ』ってメールしたわけ。そしたらポッタから速効来たわよ、返事が!」
「ポッタちゃんは何だって?」
『人間顔じゃないのは困る!』って怒りの言葉が一言」
 あははは。と私は酔いも手伝って爆笑してしまった。
 『人間、顔じゃないからね』と言う慰めの言葉が、ポッタちゃんにしてみれば『人間顔じゃない(クスッ)』と言う風に火に油を注がれたような感じに取れたのだろう。

 何だか日本語の奥深さを改めて知った居酒屋での出来事でした。

オマケ:女は怖いって思うかも知れないけど、男の子でも合コン行って可愛い子がいないと怒り、とうとうお開きになるまで、一言もしゃべらないなんて豪傑もいるんだから、どっちもどっちですよね。

コメント