男ともだち。

2005年5月2日 友達
 ピリピリとしつつ出張校正室で校正をしていると、無造作に置いた机の上でブルル…と携帯電話が震えだす。
 振動を止めようとグッと握りしめ、そっと内容を確認すると、あたしはとっておきのチョコレートを口した時のような満面の笑顔で、小さく拳を作る。
『おっす、生きてる? 今日暇か〜? 久々に飲み行こうぜ』
 ラッキー。
『飲む! 今日でちょうど一段落つくところなのよ! 飲むしかねー!』
 女子高生顔負けの早さで(当然だ、こちとら一度は女子高生を経験してるんだから!)ボタンを叩くと、カポっと携帯を閉じてそしらぬ顔で仕事に戻る。
「飲み?」
 感情が外部に垂れ流しの私は、エスパーじゃなくてもすぐにまわりに感情が察知される。
 えへへと笑いながらコクンと頷くと、「やっぱりなー」とか「飲み過ぎて倒れるなよ〜」と同僚達にからかわれる。

 約束したのは学生時代の友達。かれこれ10年来の知り合いになるだろうか。
 うちの実家の弟と同じ誕生日のだったから、あたしは彼をオトウト君と呼び、彼もあたしをアネキと呼んでいた。

 今夜の待ち合わせ場所は新宿。10年前と変わらず。
 ウチらがずーっと待ち合わせに使っている新宿東口のTSUTAYAの前で手帳を広げて待っていると、何だか不思議な気持ちになった。
 10年前の私も、一番乗りして手帳を広げて友達を待っていた。ビジュアル系バンドが大好きだったあたしがその頃使っていたのは、ゴルチェの手帳。真っ黒の革に、教会っぽいゴシック調のイラストが入っているものだ。(これは数年間愛用していた)。
 今のあたしが使っているスケジュール帳は、黄色の一色に、切り抜いた空の色が覗いているシンプルなデザイン調の物。昔のあたしが持つ事はなかったような物だけど、ちょっと変わったこのデザインは、昔のあたしでもきっと好きになったんじゃないかなぁ…なんて思いつつオトウト君を待ってみた。

「ういっす」
と声をかけられ顔をあげると、かつて栄養失調のようにヒョロヒョロに痩せていた彼の身体には、グレイのスーツがかっちり似合っている。
 あたしは何だか肉親のような気持ちで、「あんたも大人になったのねぇ…」と思わず目頭を押さえてしまいそうになってしまう。

 土曜の7時。当たり前だが新宿は激しく混んでいた。
 あたしのお気に入りの店はことごとくいっぱい…どうしたもんかねぇと思案する。
 そうだ。一件心当たりがある。
 そのお店はとても美味しい焼き鳥と日本酒と焼酎のあるこじんまりとしたお店。
 私達が向かった時は、もうかなりいっぱいだったけど、奇跡的に席が開いていて、さらに奇跡的な事に仕切りのあるお部屋を確保できた。
「すみません。混雑が予想されますので、カウンターが開いたらカウンターに移って頂けますか? それから時間は2時間でお願いいしたいんですが」
「わかりました」
 お店の人の言葉を快諾し、座席につく、
「それじゃー、とりあえずビールふたつ」
 あたしの相変わらずの仕切り魔っぷりにオトウト君が笑い出す。
「アネキ。相変わらずだねぇ」
「そうよ。最近彼氏には磯野キリコに似てるって言われるよ。しかも、「顔はきりちゃんのが綺麗だけど」って失礼しちゃうよね。アンタ自分の彼女だろ! って言ってやるんだ」
「ははは。仲良くなってんじゃん」
「お陰様でね」
 イッキにビールを飲み干すと、勢いよく喉を通過する苦味のある泡に、あたしはクハーっと満足げなため息をついた。
「で。どうよ。メールでは何かドラマがあったって言ってたじゃない」
「…うん」
 ちょっと沈んだ声に、今日語られるドラマが悲しいラブストーリーなんだろうなぁと予感した。(そしてそれは実際悲しいお話だった)。
 日頃とても無口なオトウト君は、お酒が入るとポツリポツリと言葉を紡ぎはじめる。
「……でもさ。あんな風にドキドキしたの久し振りだったよ」
 そう締めくくったオトウト君が言った時には、あたしは号泣していた。オトウト君は、そんなあたしに最初ギョっとしていたけど、いつのまにかオトウト君までワンワンと泣き出してしまった。
 あんまりにもお酒を飲んでしまって、どんな話だったか全然覚えてないけど、鼻水と涙でぐしゃぐしゃになりながらも、焼酎をお互いのグラスに注ぎノンストップで飲み続ける。

 きっとあたしは酔ってなかったら言えなかったような恥ずかしい慰めの言葉をいっぱい言っただろうし、自分に対して猜疑心と劣等感の強いオトウト君は、素面だったらあたしの言葉なんて受け入れてくれなかったと思う。
 けれど。
 酒は偉大だ。
 一杯、また一杯とグラスを空にしていくたびに、あたし達は研ぎすまされた純度の高い存在になっていく。
 きっとその後あたしは、自分自身でさえ気付かないような不安をオトウト君に話しただろうし、オトウト君もあたしに色々な焦りや悲しみを話してくれたのだと思う。
 そのひとつひとつに私達は頷きあい、喉を焼くようなアルコールで昇華させていったのかも知れない。

 気がついた時は、もう涙も出ないほどワンワンと泣いた後で、台風が過ぎた後の青空のように私の心は晴れていた。
「まったく。泣いたのって何年ぶりだか思い出せないよ…」
 そう言って照れたようにため息をつくオトウト君の顔もどこか晴れ晴れとしていた。
「いやー泣いてた時の記憶がないからねー。何しゃべったのか覚えとらん」
「俺も…。なんにも覚えてない。何であんなに泣いてたんだろうねぇ」
 晴れ上がったブスな顔で、お互い苦笑しあう。
「そういえばお店の人。二時間って言ったのにこんな時間まで追い出さないでいてくれたね」
「そうだよ。あんまりワンワン泣いてるから、カウンターにする事もできずそっとしておいてくれたんだよ。こんど大将にお礼言っておかなきゃ…」
 人様にかけまくった迷惑に、ギャーと赤面しつつも、他人の優しさが身に滲みた。
「終電も近いし。そろそろ帰りますか」
「んだね」
 そう言って私達は、ふらふらと駅に向かって歩きだした。
 次に会うのは来月か、はたまた数年後か…、いやこのまま縁が切れる可能性だってありえる。
 神様の思し召しだから、その日が来るまで楽しみに待っておこう。

 かつて10代のあたし達は、この新宿の雑踏を汚れたスニーカーでぞろぞろと歩いたものだ。
 その時のあたしは、物凄く力強く大地を踏み締めて、ためらいは微塵もなく前だけ見て歩いていた。
 全部がおそろしいほど楽しくて、その先もずっとずっと明るいところに続いていくって信じて疑わなかった。
 いつのまにかスニーカーからヒールに履き替えてしまったあたしは、後ろに続く風景や、立ち止まる事の怖さや、歩き続けなければならい宿命とかそんな事一切考えて、踏み出す足がためらいがちになっている。
 でも今、頼りなさげなフワフワとした足取りでも自分の足で地面を踏み締めながら、なんとなく世の中捨てたもんじゃないなと思った。
 そして。オトウト君もそう思ってくれたらいいな。
 あたしにとって大切な人全てが幸せになりますように。恥ずかし気もなくそんな事を空に祈ってしまった一日でございました。
 仕事柄か、この年齢にしては結構銭湯を使う私達。
 会社の側に3つ行き着けの銭湯があり、
「ぎゃ、A湯は11時までに入らないと追い出されるよね…。間に合わない!」
とか、
「今日は寒いから、シャワーのお湯が熱いお墓の側にあるB湯に行くか…」
など話すのである。
「ふかみちゃん。この前A湯で凄いのみたよ」
「凄いの? ちち?」
「……違うよ」
と言って同僚のナナちゃんはは、凄い話をしてくれた。
 
 Aちゃんが銭湯に入ると、正面から左側にあるこじんまりとした3人スペースに腰を下ろしたそうだ。
 Aちゃんがせっせと体を洗っていると、色の白い女の人がすっと隣い座ったそうだ。
 そして彼女がおもむろに取り出したのが、
 LG21。コンビニで普通に売っているヨーグルトだったそうだ。
「でね。普通にベリっとふたをはいで、エステシャンみたいな見事な手さばきで顔にぬりたくったんだよ!」
 そしてヨーグルトをひとつ塗り終わると、もうひとつ新しいヨーグルトを取り出し、今度はバディーに。
「なんかヨーグルトの固まりがこっちに流れてくるから急いで席変わったよ」
 ナナちゃんはそう言うが、ぽそっと。
「でも、化粧してないはずなのに、すっごく色白かったんだよねぇ」
 ……ちょっとやってみたいかも。
 怖いものみたさと言うか、ちょっと本気でそんな事を考えてしまいました。
 ああ、女って業って怖い。

優しい嘘

2005年1月23日 友達
「U川結婚するつもりらしいよ。アイツ今お金貯めてるみたい」
 そう言われた時、いつかは…と覚悟はしてたつもりだったけ、鋭利なナイフで昔の古傷をえぐられたような感覚に陥った。苦しくて息ができなくなった。
 古傷は3年近く経ってもまだ小骨のように刺さったまま。
 何かを飲み込むたびに小さな痛みが走る。
 皆もっとうまく飲み込めているはずなのに、どうしてこう何事にも不器用なんだろう。
 でも今日の痛みはあの時、別れを切り出された時と同じ。
 今回も覚悟してるなんて口だけだったんだと痛感した。

 19の時から5年半。初めて付き合った彼の結婚秒読み報告。
 男の人では初めて電話して、デートして、旅行して、ふたりで御飯食べて、映画みて、手を繋いで、キスして、SEXして。そして初めて私の前から去った人。
 目から涙がこぼれないように力を入れると、酒を持つ手が震えた。

 別れ話をされた時、今の自分とじゃだめならば、3年後の自分の気持ちを待とうと思った。
 まだ好きだったらもう一度、今度は私から告白すればいいと言い聞かせ、表面的にすんなり別れた。その後は死ぬかと思ったけど、それを知っているのは友達たちだけ。
 4月で3年。毛嫌い料理や家事も多少はできるようになったし(やってみたら結構すきだった)、彼以外の男の人も何人か知った。
 ただそれは、「もったいないことしたなぁ…」って思わせたかっただけなのかもしれない。1年半くらいはこれしか考えてなかった。
 そして現在。彼より合う恋人もできたのに…。
 どうしても気持ちに決着のつけられない忘れられない人。
 告白するかは別として、もう一度会って話しがしたかった。
 自分がどんな事を話すのかシュミレーションしたけどパターンが沢山ありすぎて自分でもわからない。

 昨日また友人に「ちょっとでもいいからすぐ来い」と連絡を受け、飲み会に途中参加した。
 今日こそは言わなきゃと思っていたと切り出され、彼らがもうすでに招待状を手にしていた事を聞いた。
「イキナリ言うよかいいだろ」ボロボロ涙が溢れる私にそう言って酒をつぐ。
 その通りだ。さすがは18からの付き合い。頭が下がる。
 そしてもうひとりびっくりしている自分がいた。まだこんなに泣けるんだって。
 あれから一度も恋愛事で泣いた事がないのに…。昔の泣き虫の子供に戻ってしまったようだった。

 何か悲しいんだかわからない。恐ろしいほどの喪失感。
 物凄くパワーがあって、人を純粋に好きになれた時代。打算とか計算もない時代。そんな自分や時間が懐かしいのか、わからない。きっとそうなんだと思う。

 今私には彼がいる。とても大切な人。今泣いてるのは昔のままの部分。子供の私が大人の私な体で泣いているんだと思う。 そうじゃなかったらシャレにならない。
 それが切なくて情けなくて「こんなんじゃいっそ別れた方がいいのか…」と思ったりもした。

  新宿駅の改札でいつまでも号泣する私を、M君とKちゃんは隠すように立ち、「いいからもっと泣け。泣けるだけ泣け!」と言ってくれました。
 そして一本9000円近くする酒を、泣いている子供にアメでも与えるかのように私のために頼んでくれたF君。(知らずにチャンポンしてごめんね!)ありがとう。皆大好きです。

 落ち着いてどうして泣いたかわかりました。前に読んだ本にあった凄く切ない台詞です。

 別れるということは思うに、つまり、たとえどういう場合の別離でも結局のところそれは物理的な別離だ。
 同じ空の下にいるのに違う星で生きているようなもので、どんなに彼の事を思っても、彼は自分の知らない生を生き、知らない人を愛し、知らない間に死ぬという事だ。
 同じ空の下にいるのに、こんなにも遠い。それがただ悲しい。

プロポーズされる

2004年10月31日 友達
 「ふかみんと一緒に家庭を作ったらきっと楽しい。結婚したい」
 とプロポーズをされました。
 そしたら、横にいはもう一人の友達も真面目な顔で、
「うん。私も立候補したい。結婚して」
 と言うんだよね。

 ……。

 女に真面目な顔で求婚されてもな〜。

「いや〜…。ごめんね。あたし残念な事に女なんだよねぇ」
「そうなんだよ!メチャクチャ残念だよ!!」
「なんで男に生まれてこなかったのさ!! 罰としてアンタに似た男探しといで」
 と掴み掛かられて、
「あたしと似た男だったら調子の良い遊び人の確率も高いわよ…」
 と力なく笑ってみました。

 最近、女友達に「あんたみたいな旦那が欲しい」。
 と良く言われます。
 でも26年間で1度も男にプロポーズされた事はありません。
トホホ。
「なんかさ。こうやっていると小学校の林間学校みたいじゃない?」
 名案が思いついた!とばかりに告げる私の台詞に、友人のナオ君はガクッとため息を着きつつ、
「そー言えばこれと同じ気分味わったことあるわ」
とシミジミと呟いた。
 彼がどんな表情でそう言ったのか真っ暗な部屋では皆目見当もつかない。

「なになに?」
 うつぶせで布団に入っていたが、くるりとナオ君の方へ向き直り、興味津々とばかりに瞳を輝かす。
「お前と付き合う〜?って雰囲気でさ。俺の家で初めて一緒に飯作った時だよ」
「ああ。鍋か。確かキムチ鍋作った時だっけ?」
「バカ。キムチ鍋は俺が作ったんだろ。お前何もやってないじゃん」
 何年前だよ。もー忘れたよ、と口をとがらせてみるが、やっぱり真っ暗なのでナオにはこの抗議は通用しない。
「パスタだよ、パスタ。で一緒の台所に立ってさ。お前こう言ったんだよ、『ねー、なんかさ。こうやっていると小学校の調理実習みたいじゃない?』って」
「あはは。調理実習が林間学校。ちゃんと繋がってんじゃん」
「そん時はせめて新婚さんとか言えないの?って言った気がする。今後あれは色気ないからやめた方がいいじゃない?」
「私に色気求めてもしゃーないじゃろ」
「忠告だよ。友達としてちゅうこく」
「あいあい。肝に銘じておきやす」

 なーんて会話をしていました。ベットの中で。
 ナオ君は18歳の時の同じ学校の友達。
 科が違ったんだけど、ウチのクラスでつるんでいた奴らと友達で、一緒に遊ぶ事が結構あった。

 卒業してから疎遠になっていたんだけど、ひょっとした事からまた飯でも食うようになったんだけど、その後ほんの一ヶ月くらい付き合ったのだが、あまりのソリの合わなさに友達に戻ったのだ。
 友達としてたまに会うなら話もつきないし、気にならない事が、彼氏彼女の関係になるとどーにもこーにもチグハグになってしまう。
 それに付き合っていてちょっとでもラブっぽい雰囲気な会話になったりしても、お互いの恋愛遍歴を知り尽くしているので、今さらそーゆーラブフィルターが作動しないんですよね。お花が飛ばないって言うか…。手の打ちをお互い見せ過ぎていると言うか。
 それまで始めての人とエライ長く付き合ってたので、衝撃の事実にびっくりしてしまったのだ。

 この日は平日に飲んでいて終電がなくなったから、一緒に泊まったんですけど、凄く変な気分。
「あ。風呂隠れて脱いだ方がいい?」
「ぶっちゃけヤってんだから、今さら照れてもしゃーないっしょ」
 Hする気もないのに、恥じらったりとか何かそらぞらしくて寒いって言うか、、。
「だよなー」
 みたいな感じ?

 こーゆーのって凄く不思議ですよね。
 やっぱり性とか男とか女とか意識しない頃に近い気がする。
 もっと仲の良い友達もいる。でもまー最悪ヤっちゃっても平気かなとは思えない。
 無意識の中で男女の攻防と言うか、意識が働くからなぁ。
 ここまでデーンと楽な気持ちでゴロゴロできないなと思いました。

 もし。きっとこの時、してたとしてもお互い風俗かカラオケでも行くよーな気持ちだと思うんですよね。。
 恋愛感情がないから気持ちが冷静って言うか。
 ただ楽しい事しようぜ!みたいな。
 男友達との距離の取り方って本当に難しい。

ああ。あと読み返してみたら、「ん?ナオ君が私のことを好きなように取れてしまうかもしれん。」と思ってみた。
 向こうに恋愛感情がないのは十分すぎるほど知っているので御心配ならさらず。
 男女間の友情は、行為の線引きがお互い同じなのが大事なのかも知れませんね。(そこが違うとうまくいかん)。
 

オマケ:これはタナベ君と付き合う前です★
「私の乳には呪いがかかっているんだよ。好きでもないのに触ると向こう3年は彼女できないんだって。アンタこの年で今から3年はキツイよ。覚悟ある?ないでしょ、困るでしょ? 触らない方がいいよ」
 以前知り合いと飲んだ時、相手がご乱心して私の乳に触ろうとしたので、そう言って食い止めた事がある。(なんつー色気のない言い訳なんだって話もありますが…)
 
 たま〜に自分でも対処できないようなイレギュラーな事態が起きると、口が勝手に動きません?

 昔、大晦日から黒夢のオールナイトライブに行き、酒をかっくらった私たちは大変ご機嫌でありました。
 そこで酔って気が大きくなった私達は、今日来れなかった悪友に『あけましておめでと〜!』と言うため、朝も異常に早い事も忘れて電話をかけた事にしたのだった。
 プルルルルルッル……………………。
 と鳴り続ける音は非常に長い。
 私のまわりにいる友達も首を傾げている。
 普通ならここでヤメておくんですが、酔ってるし意地になって電話を鳴らし続ける。
 ほどなくプツッ、と電話の切り替わる音がして、今度はちょっと遠い音でプルルルルルルル………とまたコール音が鳴り続けていたが、ほどなくして友人が出た。

「あ。ケロロ?」
「あらあら。ふかみちゃんじゃない」
 出たのは彼女の母親だった。私はちょっと予想していなかったので、動揺する。
 そっか。途中でプツっと言ったのは、家電に転送されたからだ。
 自分のマヌケさに舌打ちしたくなる。
「おばさま。あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致しますね」
「ああ、あけましておめでとう」
 いつも闊達なケロロの母親の声が、今日はなんだか怪訝な物言いに変わっている。
 ん?なんでだ??
「どうしたの?ふかみちゃん。うちのケロロと初詣に行ってんでしょ?」
 ケロロと初詣!? げ………。ヤバイ………。行ってない!!!!
 つーか知らない!!
 酔いもふっ飛び、どっと汗が吹き出す。

 どうやらケロロは、彼氏とコッソリお泊まりをし、初詣へ行くために私の名前を使っていたらしい。
 ギャアアアアア!!!!!!! 頼むから先に言ってくれ〜!!
 めちゃくちゃ動揺して本体の私は大パニック。
 するとスルスルと勝手に口が動きだした。
「あ。そうなんですよ。ケロロとお寺ではぐれちゃって…。携帯に電話しても出ないからお家にお電話あったかと思ったんですけど…」
「ああ、そうなの。ケロロからは電話ないわよ」
 ケロロ・ママの声が明らかにほっとする。
「そうですか…。わかりました。もうちょっと探してみますね」
 そう言ってピっと携帯を切った。
 び……びびったああああああ!!! ありがとう自分!
 その後ケロロと無事連絡が取れ、ケロロは待ち構えていた母親に、
「もー大変だったよ。凄い人でふかみとはぐれた」
とぶすくれたらしい。
「あー。ふかみちゃんが心配そうに電話してきたわよ」
 なーんて、何事もなかったかのように会話は続き、無事乗り切ったようだった。

 最近は口が勝手に動くって事がなくなってしまったけど、あの感覚は、誰かが自分に乗り移っているような…『寄生獣』で顎のジョーに乗り移られたような感覚なのかな。

あ〜…完全に仕事から逃避しようとしてるよ……。ラフが切れないし……ネタも浮かばないんだもん……。
さてちょっとだけマンガでも読もうかな………。。
三日前にここのサイトに越してきた深海です。
携帯でもパソコンでも説明書読まない困ったちゃんなので、
相変わらず右も左もわかりません。(苦笑)

みんなどうやってお友達増やしているんじゃろ?
なんだか賑わう公園(人様の素晴らしいサイト)をコッソリ
遠くで見つつ、いつか公園デビューを狙うママさんのような気持ちになりました。
いや。団地デビューか!?
 そりゃパーキングエリアのカレーですよ。
 期待しちゃダメなのはわかっていますよ。

 でもインド人がキーマカレーをよそったり、ナンを焼いている姿を見たら『うまいかも…!!』って心臓バクバクしません!?
 頭の悪い私たちはバクバクしちゃいました。(汗)

友人A:「すげー!インド人だ!インド人のカレーだ!」←29歳オトコ
私:「ぎょほー!!本場のカレーだ!異国の味だ!」←26歳オンナ
友人B:「キタッ!ナンもある!でかッ」←30歳オトコ
私:「きゃいぃぃぃ!!すっっげー!」」
友人A:「シュリンク!キーマ!チキンにナン!」
私:「いっとく?いっとく?」

 ふおおおと富士急に行く前に異様な盛り上がりを見せる大人3人
 それを生暖かい目で見守るまわりの人達。(しかもまだ休み中の若い子が多い)。
 我関せずとマイペースにおソバを購入しているのは、中学時代からの友人・都ちゃん。(彼女が我らのストッパー)。

 我先にとカウンターに並び、ほどなく私の前に並んでいた友人のカレーを見ていると非常に嫌な予感がした。
 給食のトレイのような銀の器にチョロっと注がれるチキンのなんと小さい事か。
 そしてルーの色が…なんか美味しいカレーの物と違う気がする。
 自慢じゃないが私の野生の勘はカナリ鋭い。
『逃げよう。ドタキャンしよう。仲間を裏切ろう』。
 即座に決心してそっと列から離れようとするが、前に並びつつ私の動向を伺うのは、本日の運転手兼車の保持者。
 裏切り者には死を!と言う目でこっちを見ている。
 この人達の場合、冗談ではなくパーキングに放置されるかも知れない。(ああ…食べ物の恨みは恐ろしい)。
 トンズラは断念して、おとなしく800円払ってキーマ&シュリンクカレーをオーダーした。

一同:「いっただきまーす」
 パクっとスプーンを口に突っ込むと、私の中で下落中のインドカレー株は大暴落した。
友人A,B:「……。」
私:「うええん(泣)」

 私は泣きそうな声を出す。そして自分より悲惨な奴がいないかと、お互いの皿に盛られている別ルーの取り替えっこが始まった。
友人A:「うぬぬ…ふかみんのキーマはギリギリいけるよ。オイラが一番ヒドイ」
私:「イケるって言っても…レトルトカレー的にね」

 大人しくお蕎麦を頼んでいた別の友人の皿を恨みがましくみつめる。
 パーキングですもの…蕎麦が妥当ですわよね…。

「………うわああん(泣)ソバにすれば良かった!いいな〜。都っち!」
「ソバ!SO BA!!」

 バンバンと机を叩き友人Aと駄々をこね、お蕎麦を頼んだ都ちゃんを困らせる。
「あのさぁ…パーキングの御飯だよ。どこまで期待してたの? よくそこまでガッカリできるね」
 カレーを黙々と食べていた友人Bが呆れたように言う。
友人A:「だって!インド人が作ってたんだもん!もしかしたら異国に行けるかな…って期待するじゃん!」
私:「はっ。あのインド人がイラン人ならどう?『ワタシ、イラン人ノ○○デス。一生懸命インドカリー作リマス』とか書いた名札付けてんの!そしたらこんなにガッカリしなかったのかも」
友人B:「なるほど。イラン人の作るインド風カリーか」
私:「それはそれで気にならない?」
友人A:「気になる!まずくても微笑ましい!イイネッ!」
私:「でしょ!気になるでしょ!? イラン人のインドカレーが食べたい!」


 たかがカレー。されどカレー。
 富士急ハイランドにつく前に異常な盛り上がりを見せたランチタイムのできごとでございました。
『人間顔じゃないからさ』
「…ってメールしたわけよ。幹事として、私はさ!」
 ゴクゴクとジョッキに注がれたビールをぷプハっと飲み干して、オジさんくさく、ケロロは言った。
「うんうん。それで?」
 あしは枝豆を熱心につまみながら、気のあるようなないような微妙な返事をくり返す。

 先日、ケロロがウチらの共通の友人・ポッタちゃんの為に開いたお食事会(お友達紹介会)での出来事だそうだ。
 以前ポッタちゃんの開いた合コンで彼氏をゲットしたケロロは、今度はポッタちゃんのために一肌脱いだのだ。
 話し聞くと、どうやらポッタちゃんの理想は『優雅な専業主婦』
 着物やお茶など中々多趣味の多いポッタちゃんからは、『お稽古のお金を快く捻出してくれる頼もしい旦那様候補』と言うオーダーが入ったそうだ。
「オーダー入りまぁ〜す!『お稽古のお金を快く捻出してくれる頼もしい旦那様候補』」
「ウイ!」
 っとケロロはスマスマよろしく、返事をしたのだろう。

「だから!相方と相談してあたしゃメチャクチャ探したわよ」
 ケロロはさらにピッチを早めてジョッキを追加する。
 あたしは指先に付くジョッキの水滴をナプキンで拭きながら、ちょっと体を前のめりに「うん。うん」と頷いた。
 二人のサーチエンジンで検索した結果。ピコンと一件該当。見事見つかったそうだ。どうやら会社の若社長さんで、性格も温和。生活は楽をさせてくれそうだと判断し、彼女に紹介したそうだ。
「…まぁ。30ちょいなのに髪がペタっとしていてねぇ…。でもお金持ちで性格良くて売れ残るんだから、それなりの訳はあるもんじゃんよ。まぁ気に入るかどうかは別として紹介してみたわけ」
「で? どうだったのよ」
「いや〜。どうやら好みのタイプではなかったようでムスっとしちゃってねぇ…」
「まぁねぇ〜。ポッタちゃんも期待してただろうかねぇ」
 さっきまでの勢いがちょっとだけ薄れたケロロがちょっと迷ったように言葉を続ける。
あんたさ。あれ知ってる?イヤなゴキブリを泡でで固めよう♪ってCM。あれの泡で固められてた亭主にそっくりだったのよ。」
「あ〜。その飲み会行かなくて良かったかも。あたしもその人見たらきっと『ケロロ!スプレー持ってこい!』って言っちゃうよ」
(すみません。悪気はないんですが、私ら口が悪いので…。)
 私の台詞に、ケロロは頷きたいけど頷けないと言う微妙な顔でぷぅっと膨れた。
「でもさ!オーダー的にはちゃんとあってたもん!」
「は〜。ポッタちゃんは何気に面食いだと思うよ」
「そんな! 金あって優しくてカッコイイ男がいたら、あたしが付き合うっちゅーの!」
 そりゃそうだ。
 ウンウンと力強く頷き、思わずケロロと固い握手を交わす。ナイス強欲。ナイス悪友。
「でも優しい人だって相方も言ってたし、きっと良くしてくれるんじゃないかなと思ってさ。『人間顔じゃないからさ』ってメールしたわけ。そしたらポッタから速効来たわよ、返事が!」
「ポッタちゃんは何だって?」
『人間顔じゃないのは困る!』って怒りの言葉が一言」
 あははは。と私は酔いも手伝って爆笑してしまった。
 『人間、顔じゃないからね』と言う慰めの言葉が、ポッタちゃんにしてみれば『人間顔じゃない(クスッ)』と言う風に火に油を注がれたような感じに取れたのだろう。

 何だか日本語の奥深さを改めて知った居酒屋での出来事でした。

オマケ:女は怖いって思うかも知れないけど、男の子でも合コン行って可愛い子がいないと怒り、とうとうお開きになるまで、一言もしゃべらないなんて豪傑もいるんだから、どっちもどっちですよね。