「アンタさ。麦草峠って知ってる?」
 本人的にはそぅっと帰宅したつもりなのだが、ガサツな性格がたたって、猫のような忍び足にはほど遠い。
 私のたてた物音は深夜の闇に溶け込む事なく、二階に眠る両親の部屋まで届いてしまったようだ。
 ガチャリとドアの空く音にちらりと時計を見る。時間は朝の6時ちょい。
 目を凝らしても時間がかわるわけもなく、「やばいなー」と思ってみたりする。
 こっちも数日の会社に泊まり込みがたたって疲労困ぱいなんで、できればさっさとシャワーを浴びて2時間くらい仮眠したい。
 心配してくれるのはありがたいが、小言は御免被りたいのが本音である。
 母は眠い目をこすりながら、サイヤ人のように怒りのオーラを発しながら私の前に立った。
 そして先ほどの私のようにチラリと時計を眺めると、低い声で
「アンタさ。麦草峠って知ってる?」
と言葉を紡いだと言う訳だ。
「麦草峠?」
アホのように私は聞き返す。
「あんたの会社、現代の麦草峠だよ。ほら若い女の子が安い賃金で寝る間もなく働いたでしょ。あれだよ、あれ。そんでもってアンタ病気になるとポイよ」
 私は昔教科書にのっていた過酷な労働で働く娘たちの写真を思い出した。ちょっとおかしい。
「ほんとだ。あたし麦草峠で働いてるんだー」
 まぁ、それもありかな。
 でも私のまわりって野麦峠で働いてる人多いけどね。

 そう言えば以前会長が
「おい●●(局長)。電●に勤めてた××んトコの倅が過労死したそうだ。うちは大丈夫か?」
 と局長に聞いたところ、局長は満面の胸を張って、
「大丈夫です! 丈夫で頑丈なのを揃えてあります!」
と言ってたっけ。
 ははは。丈夫で頑丈が取り柄って…。
 100人乗っても大丈夫って言う稲葉の倉庫みたいなもんか?
 確かに面接で「体力には自信があります!」って言ったけど。

 そんな我が部は会社でも『女工哀史』と言われている。
 でも現在は自宅に帰らず寝袋で寝るようになったから、前よりは全然楽!
 さて。今回も修羅場に突入。死なないように頑張ります。
 と言う事で暫く更新が滞ります。…申し訳ございませんが、見捨てないで頂けると嬉しいです。ごめんなさい…。

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