「絶対イヤだ!」
「嫌だってって言っても観るっ!」

 深夜のレンタルビデオ店で押し問答をする私とタナベ君(一応カレシ)。
 私は今日『盲導犬クイール』を観る気満々だったのだが、タナベ君は「泣くから嫌だ」と断固拒否の姿勢を貫いているのだ。
「……。今日さ。トランクにいっぱいの洗濯物詰め込んで、20分近く雨の中歩いてコインランドリー行ったんだよ。シーツとか洗濯物が乾いていることへの感謝の気持ちを現わす気はないわけ?」
 ドスの効いた静かな声でそう言うと、タナベ君を観念したようにうなだれた。

 そしてクイール観賞会。パピーウオーカー(小犬の時の育ての親)との別れのシーンで、
「くーちゃん……」
と早くも涙声のタナベ君。
 私的には、クイールに「クーちゃん」と勝手にニックネームをつけてしまっているタナベ君がおかしかったのだが、指でもさして、ヒャーヒャー笑ったひにゃーどんな制裁を受けるかわからない。我が家の平和のために、お酒と一緒に笑いを飲み込む。

 ……。
 上映無事修了。

 最後老衰でクイールが息を引き取る時、私達の号泣ったら凄かった。
 まるで身内でも死んだかのようにオイオイ泣き崩れ、チーンチーンと鼻をかむ。
 やっぱりお互い実家で犬を飼っているせいか、どーしても感情を移入しすぎちゃうんですな。
「は〜。良かった良かった。じゃーHする?」
 目を真っ赤に腫らせたまま、タナベ君に向き直りそう言うと、タナベ君はまるで日本語が理解できない外国人のように、キョトンとして私を凝視する。
「は?」
「いや。だから心洗われる映画もみた事だし、Hしよーよ。げっ、もう4時もすぎてるし!急がなきゃ」
「……。いや心洗われる映画を見たからこそ無理ってもんだよ」

 え? そうなんですか?
 カルチャーショックを受ける私に、ため息をつくタナベ君。
「映画観た後にするならゴシカにしときゃー良かったじゃん。クーちゃんを観た後にどうして、そんな気分になるのか理解できない」

 男って繊細なんだなー。
 そしてちょっとだけクーちゃんを呪った私でした。

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