「今回のメディアは凄いよ。舞台一面に水を貼るんだって」
 すでに千秋楽のチケットをゲットしていた母のこの言葉を聞き、絶対に行く!と決心した私。
 マクベスの全面鏡貼りの舞台にもドギモを抜かれたし、舞台装置フェチとしては是非観ておきたい。
 
 開演時間。ゆっくりと幕が上がる。
 現れた水面には睡蓮が咲き誇り、細く糸のような照明が水辺を照らしている。
 その光景は静かで息を飲むほど美しい。
 そして年老いた乳母(松下砂稚子)がゆっくりと語る嘆き言葉…。
 もうこれだけで否応なしにメディアの世界へ引きずり込まれてしまう。

 乳母の嘆きの後、戸の向こうから、絶望したメディア・大竹しのぶが紡ぐ呪詛と悔恨の呻きが聞こえてくる。
 まだ姿を現す前だというのに、その圧倒的な存在感がドア越しから溢れて出ているようだ!
 あまりの深く暗い絶望の声音に、全身に鳥肌立った。
 舞台装置はずっと変わる事なく、時には飛沫を上げこの水面で進んでいく。(前から3列目までは、お客に水よけシートを渡されていた)。
 水に濡れてずっしりと重みを増した衣装も、まるで人々のしがらみや業のようだ。
 水(さまざまな思惑や感情)に足を取られまいともがく人々の姿に、ゾッとしてしまう。

 去年・大竹しのぶの演じた「喪服の似合うエレクトラ」を観たが、「メディア」の方がより女の情念が深い気がする。
 夫イアソン(生瀬勝久)に裏切られた妻・メディア(大竹しのぶ)が、その国の王(吉田鋼太郎)と新しい妻となる姫君を殺し、腹を痛めて生んだ二人の子さえ殺すという壮絶ストーリーなのだから…。
 大竹しのぶの子供を殺すか思いとどまるかを葛藤する様が生々しかった。

 今まで色々と劇を観てきたけど、鳥肌が立って涙が止まらなかったのはこれだけ。
 女の情、女の嘆き、そして怖さ。
 全てがここに凝縮されている。
 男は女が怖くなるかも…。

 それにしても大竹しのぶは凄い。
 蜷川幸雄が「大竹しのぶだから、女性でメディアをやった」と言わしめたのも納得。
 その他の役者も凄く良かった。
 特に生瀬は今までコメディーしか観たことなかったので、どうかな? と思っていたのだが、見事なハマり役。
 まるで武士のような理知的で残酷さを隠し持つ威厳のある声が、古典作品にピッタリだ。
 今日は二日目。舞台は毎回変化していく物なので、もう一度変化したメディアを観たいと思った。

 絶対に観て欲しい一本。
 どうか劇場へ足を運んでみてください。

追伸:笠原さんも頑張っていました。ライフファンの皆様ご安心を。(笑)

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