「ジョゼと虎と魚たち」を観た。
 切ない気持ちが愛おしいって感情なのかな。
 もうばかみたいに涙が止まらない。私は小説よりも、私は映画の方が好きでした。
 映像も、音も。
 全てがすす汚れていて美しくて力強い。
 台詞や役者も凄く良かったなぁ。本当に全てが好きな作品でした。出会えて良かった。
『忘れたい、いとおしい、忘れられない。』って言うキャッチコピーにもぐっときました。

 ストーリーはこんな感じ。
 恒夫はある雀荘でバイトしている。
 そこで持ち上がる噂は、毎朝人目を忍び、ボロをまとった老婆が乳母車を引いて徘徊していると言う事。
 乳母車にはヤクを積んでいるとか、大金を隠し持っているとか色々憶測が飛び交う中、恒夫はその乳母車に遭遇する。
 そっと中を覗くと女の子が現れ、きっと睨みつけたかと思うと、包丁を振り回してきた。
 乳母車にいた下半身麻痺の女の子はジョゼと言い、生活保護を受けながらおばあちゃんと二人で暮らしている。
 お詫びにと、恒夫は朝食に招かれる。出汁巻き卵もみそ汁もご飯もどれもこれもメチャクチャ美味しい。
 彼女に「美味しい」と告げると、初めて彼女は口を開いた。部愛想な声で「当然や。ウチが作ってるんやから」と…。

 こうして奇妙な関係が続いていくんですが、途中でおばあちゃんが亡くなったりと色々ある訳です。

※ネタバレNGな人は読まないでね♪※

 ジョゼは暗い海の底でひっそり生きてきた闇の住人。
 そして恒夫は明るい所で生きる陸の青年な気がした。
 そんな二人が惹かれあい、愛し合い、そして彼はまた明るい世界に戻っていく…。
 彼女ひとりをまた暗闇に残して…。

 恒夫にはジョゼを捨てていけるだけの強さはあっても、ジョゼと一生一緒に生きる強さはなかったんだよね。
 ラストにジョゼと別れを交わし、彼女の家から出た恒夫が、家の外で新しい彼女(元カノ)の前で突然号泣するシーンがあって、それが一層リアルな感じがした。
 童話みたいに「いつまでも、ふたりは幸せに暮らしましたとさ」って言うエンディングは素敵だけど、やっぱりそうじゃない事の方が現実は多い。
 本当に強い人ってどのくらいいるんだろう。
 強さって何? 弱さは? ずるさは? 優しさは?
 よくわからないけど、ジョゼはきっと肝心な所がとても優しくて強いんだと思う。
 物語の途中、おさかな館でジョゼと恒夫にこんな話しをする。

「なぁ、目ぇ閉じて。何が見える?」
「なーんにも。真っ暗」
「そこが昔うちがおった場所や」
「どこ?」
「深い深い海の底。うちはそっから泳いできたんや」
「なんで?」
「あんたとこの世で一番エッチな事をするために」
「そっかぁ…。ジョゼは海底に住んでたのかぁ」
「そこには光も音もなくて、風もふかへんし雨も降らへんで、シーンと静かやねん。」
「寂しいじゃん」
「別に淋しくはない。はじめから何にもないねんもん。ただゆっくりゆっくり時間が過ぎていくだけや。うちはもう二度とあの場所には戻られへんのやろ。いつかあんたがおらんようになったら、迷子の貝殻みたいにひとりぼっちで海の底をコロコロコロコロ転がり続ける事になるんやろ。 でもまぁ…それもまたよしや」
 そう言った時のジョゼの顔が忘れらないほど切なくて綺麗だった。

 どんなに好きでも背負えない物がある。彼の狡さを非難したり幻滅したりするのは簡単だけど、人それぞれ背負える荷物の大きさは違うから。いちがいに彼を攻められない。
 恒夫はとても優しいけど、ジョゼから逃げた。自分で明るい世界を生きる事を自分で決めた。
 それなのに。
 自分でジョゼを捨てたくせに号泣する。

 彼が泣いた意味は、彼女と二度と会えないって事だけ? 捨てた側の男の気持ちなんて今のあたしにはわからないけど、もっともっと色んな想いがあるんだろうなぁ。
 彼は明るい所でしか生きられない人間だった。そして幸か不幸かその事実を知っている。
 きっと明るい所で生きていく彼は、お嬢様の彼女と安定したレールの上を安全に走っていく気がする。
 でもふっとジョゼを思い出して泣くのかもしれない。もう喪失してしまった愛しさは鮮やかな痛みを伴う物だから。

 高校生位のあたしだったから、ジョゼを捨てた恒夫に対し、確実にテレビを壊すほど癇癪を起こしていたかも知れませんが、大人になったのかも知れませんねぇ。

 ずっと真っ暗な中にいる人生と、一瞬だけ明るい所を知ってしまいその後もといた暗い場所に戻る人生。
 どっちか選べと言われたら、私はどっちを選ぶのかな。理想の自分と現実の私が頭の中で戦っている。
 答えは全然でないけど、私もジョゼのように静かにありのままを受け止められるような人になりたいな。

 心に滲みる一本でした。

http://www.jozeetora.com/index_f.html
★スクリーンセーバーも良い感じ♪

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