0731。数字の暴力

2005年7月31日 恋愛
 数字という物はひどく暴力的な存在とあたしは思う。
 あまりにも直接的すぎて、時としてあたしを傷つける。

 この年まで生きてくると、思い出深い数字という物が多数存在するようになってくる。

 その番号は誕生日だったり、住所だったり電話番号だったりする。
 モチロン、大切だった人の。

 一緒に過ごした思い出や、彼から発せられた様々な言葉は、少しづつ形を変えてゆくものだ。
 時間が経つと鋭利な角が時間によって削られ、丸みを帯びてくるようになる。(そして消えそうなほど小さくなってしまう)。

 だけど数字は何年経っても、その時と同じ確かさで存在するのだ。

 携帯電話が普及して、人は他人のパーソナルデータを外付けのディスクに保存するようになった。
 あたしはそれが壊れてしまうのが怖くって、大好きな人の連絡先だけは無意識に暗記してしまう。
 そして大切な人にも抜き打ちテストの要領で、
「はい! 私の電話番号は? 住所は?」
と突然問いつめてしまうのだ。
 だって大きな地震がきて携帯が使えなくなったら、どうやって連絡取るつもりなの!?
 もしもちゃんと住所がわかれば、携帯がなくったって歩いてだって会いに行けるでしょう?
 疎開していても手紙を出す事ができるでしょう?

 そんな訳で、私の頭の中には本当に大切だった人の数字しか入っていない。
 あたしはあんまり頭が良くないせいか、一度覚えるとなかなか記憶から消えてくれない。
 必要なくなった番号をみんなどうやって忘れていくんだろう…。

 週末は深夜バスが終わるのが早くって0時をすぎると、終了してしまう。
 あたしはテクテクと家路を急ぎながら、携帯を開くと時間を確認する。

 いつのまにか日付が変わり、時刻は0時16分。

 あたしはきっとこの先目が見えなくなっても覚えているであろう数字を手早く打ち込んだ。
 すると、ぼうっと光るモニター画面にあの人の電話番号が映し出される。

「お誕生日おめでとう」
 二度と一緒にお祝いする事はないあの人へのお祝いの言葉。
 そしてあたしはこっそり光る携帯電話の画面にキスをした。

 0731。
 大好きだった人の誕生日。
 あたしにとって、最も苦い数字。

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