幼い影

2005年12月2日 日常
あ。また見てしまった。

しまったとばかりにあたしは小さな溜め息を付く。
渋谷駅のハチ公口を出てすぐ。
半蔵門線の駅に降りていく地下の階段の端っこに、ふとに彼女の影を見つける事がある。

その子はせわしなく闊歩する人の流れの中であまりに異質で、道路の隅に置き忘れられた石みたいにじっとしている。
彼女は2時間は軽く時間が潰せそうな分厚い本を読んでいたり(京極夏彦が多い)、寒さで手を何度も擦り合わせたり、ポケベルをじっと見つめたりしながら誰かを待っている。
まぁたまに頭の中で歌でも歌っているのか、ニコニコしている時もあるんだけど。

幼い頃のあたしの影は、こんな風にひょっこりあたしの前に現れ、大人になったはずのあたしを、ふと切ない気持ちにさせる。

ある時はデパートにある休憩用の椅子に座っていたり、新宿南口の方にある下りエレベーターですれ違ったり…。
場所はさまざまなんだけど、その日の空気の冷たさが、あの時と同じだったりすると、彼女はふっと思い出したように現れるのかも知れない。

もし念みたいな記憶の欠片があるとして。
多分様々な所にあたし達の欠片は漂っているのだ。
あたしはあたしの欠片しか見えないけど、もしかしたら他の人の念も沢山浮遊しているのかもね。
みんなどこかで見つけた事はある?

つい。「早く成仏してください」。
って思っちゃうんだけど、あたしがちゃんと声をかけてあげないと彼女は気付かないのかなぁ。
それとも永遠に彼女たちと言葉を交わす事はないの?

よくわからない。
でも。
できる事ならいつか必ず声をかけようと思っている。
かける言葉はもう決めているから。

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